
第3回 2005/04/22
短期大学部 日本画領域
教授 北村正己
デッサンは何のために
私は短期大学部美術分野日本画領域で実習指導をしています。毎年入学試験の時期になり、多くの受験生諸君のデッサンを見ることになります。いつもこの時期になると、自分が大学受験を目指してデッサンの勉強を始めた頃のことを思い出します。いろいろなモチーフを集め、今まではじっくりと見たこともないものを見つめることとなる。リンゴを描こうとして見つめていると、表面に文様がたくさんあり、意外と面白くリズカルに入っているのを見つけてえらく感動した。日常生活ではそんなにじっくりと観察することはない。正確に形を取り、陰影を描き、色を表現し、質感を出す。どの要素についてもデッサンの中で獲得するのに大きな壁があり、それぞれがうまくかみ合うようになるまでには随分苦労した。対象物を正確に表現するという作業は大変知的な行為である。
以前、ある眼科医に聞いた話だが、何も見えない状態で生まれた人が、何年か年月が過ぎた後、突然目が見えるようになった。その人は当初、丸、三角、四角など、簡単なものの形や色を認識することが出来ず、わかるようになるまで随分長い時間とトレーニングを必要としたらしい。我々も同じように、目は見えていても正確な形や色を認識するにはそれなりの時間が必要となる。デッサンはものをものとして認識するためのトレーニングである。
私は日本画を描くのに植物や風景、動物など多くのモチーフを写生する。ある植物を描くとき、はじめは対象をゆっくり見つめて鉛筆で描き出す。形を丁寧に把握し、線に強弱をつけ、立体感が出るように苦心する。1日2日と写生を続けて枚数がたまってくると、もう一度それぞれのデッサンを見直す。すると、はじめのデッサンは、張り切って描いたが、まだモチーフの特徴としての美しい形を把握するのには十分でないことがわかる。だんだん枚数を重ねるに従って不思議と良くなってくる。時間をかけモチーフを描いていると、そのものの持っている最も美しい形が見えてくるようだ。そこまでくればしめたものだ。
デッサンは正確にものを映すことよりも、対象物の持っている美しさを自ら引き出すことが大事である。絵を描く本人は誰よりも先にモチーフの良さを認識、表現しなければならない。私は写生をしている時間が好きだ。モチーフ一点に集中し、鉛筆や色鉛筆で形を追っていく。そのことに集中することに快感があり、ふと気づくと時間を忘れている。私にとって写生の時間はメディテーションと同じことである。アトリエで写生を広げて見直していると、その場所のにおいや風がよみがえってくる。小下絵や草稿を通して、描いた場所の臨場感を本紙に閉じ込める作業に入る。絵具と格闘し、写生の世界が大きくよみがえってくる。1ヶ月に上る本紙の制作では、描くことの緊張感や臨場感を持ち続けなければならない。そのためにも、写生を行うときのしっかりとしたモチーフの把握は欠かせないのである。
受験勉強とはいえ、ものを認識することと表現することの入り口として、創作の入り口としてしっかりデッサンを学んで欲しいと思います。
現在の作品投稿インターバル
- 入門コース 3日間 (本日投稿の場合、次回投稿2008月11月25日より可能です。)
- 実践コース 3日間 (本日投稿の場合、次回投稿2008月11月25日より可能です。)
- 展開コース 5日間 (本日投稿の場合、次回投稿2008月11月27日より可能です。)












